「何でも良いから探索入れて。どんなしょぼい依頼でも危ない依頼でも 受けるから、とにかく潜らせて」

俺が身を乗り出した分だけきっちり身を引いたリリアは無言でボードの 上の指を踊らせて、とりあえずこんな具合よ、と画面を俺に示した。
そこには数えられるほどの遺跡しかなくて、しかも難易度は星ひとつ。

「リリア?」

「あのねクロウ、よぉく考えて御覧なさい。三ヶ月の長期の探索を終えて 茫然自失ともいえる状態で帰って来た新人に任せられるものがどんな レベルでどれほどの量があるのか」

反論もできない俺にリリアはにっこりと、気晴らし程度にはなるでしょう から適当に入れてあげる、と笑った。有能な彼女で結構なことだ。




そんな経緯で入れてもらった探索は日帰りできるほど難易度が低くて 小規模なものだった。しかも潜ってみたら秘宝までなかった。どうせなら 秘宝を盗んだ相手と鉢合わて戦えたら良かったのにと思うくらいだ。
気晴らしにもならなかったよリリア、と心中で呟いて出口へ戻ろうとした とき、地面から嫌な感じがした。ばっとその場を離れるも、耳につくのは 何かが作動する音。おいおい秘宝がないのに作動する罠って何だよ。
どこから何が出てくるのか分からない。遺跡ごと崩れる可能性もある。 よし、さっさとトンズラ、と決め込んで背を向けた祭壇からズゥンと音が 響いて、振り向く前に吹っ飛ばされた。 「敵影を確認」 遅ぇ! くっそ 背中にモロに喰らったぞこれ。

「おい何してんだよみな、・・・・っ!!」

呻いて、一人だと確認、する。バディをつけなかったことを悔やむべきか 安心するべきか。難易度が低くても小規模でもここは遺跡の中なのに。 背中に注意を払わないなんて、初心者でもやらない。五歳の頃、初めて 潜った時だってガキなりに周囲に気を配ってた。それを今さら怠るか俺。 背後に注意を払わなきゃなんて欠片も思ってなかった自分に気付いて ぞっとした。寒くなる背筋を無視して嗤いが漏れた。死ねば良い、こんな 自分。早すぎると思った兄貴よりも八年早い。リリアには悪いけど。
視界が霞んでいく中、 「血圧低下、心拍数低下、自発呼吸に異常」  無機質な声が聞こえた。だから、遅ぇって。
ズゥンと、音と、においが。近づくそれに、目を、閉じた。


全部全部お前のせい馬鹿野郎。