出かけ先でいい肉が安く手に入ったので鼻歌まじりに帰宅して、いつもより少しばかり手の込んだ夕飯をつくり、いつもと同じ時間を見越して完成させた料理が並ぶ、テーブルの向こうが埋まらない。
胃はとうに空っぽで、しんとした空間に時折くるると間抜けな音が響く。 音楽でもかけようか、あるいはテレビを。いっそ先に食べてしまおうか。 そうは思えど階段を上ってくる音やドアが開く音を聞き逃したくなくて、 ひとりで食べるにはあまりにもったいない夕飯で。あたため直しやすい ように鍋に戻そうと立ち上がったと同時に鳴った電話に、飛びつくように 受話器を上げた。アロー?両手で耳に押し当てた受話器の向こうから、 ごめんなぁ今日食べて帰ることになってんと、申し訳なさそうな、けれど 抑えきれない明るさを滲ませた声がして、隣にいるのは誰なのだろうと 想像するまでもなく。
なるほどすべてを察した俺は、楽しんでおいでと口先で笑って、
受話器を、

おいた。




ひとりぼっちの夜
どさどさと流し込まれる料理にごめんなさいと心で唱えて、だって食べる気になんてちっともなれない。