犬も食わない


大体、何でお前はいつもそうなんだ!

新一のこの言葉に俺は完全にキれた。その言葉そっくりそのままお返ししてやりたいね もちろん熨斗もつけて! 毎回毎回懲りずに行く先々で事件に積極的に巻き込まれて、 そのときばっかり目を輝かせて謎にのめり込んで、周りも見ずにのめり込んでいくせいで 常識人には考えられないようなピンチにも陥りやがって!
今回もそうだ、普通滝つぼに落ちそうになるか、普通!
それを間一髪のところで助けてやったのに、しかも今回は黒羽快斗として、工藤新一の 友人の黒羽快斗として助けてやったのに、何でお前に怒鳴られなきゃいけないんだ!
そもそも前回怒鳴られたのだって理不尽なんだ、人を傷付けない主義の怪盗キッドが、 名探偵を助けて何が悪い。しかも相手は名探偵だ。探偵と怪盗じゃなきゃ普通に友人に なれたことが証明された相手だ。それを。あっちの姿で助けたことを怒られたから今回は ちゃんと昼に! 私服で! 変装しないで! 突然の登場もなしで! 助けてやったのに どうして! どうしてまた怒鳴られなきゃいけない!

「だったら心配かけさすようなことすんじゃねぇ!」

脳内にとどめておいた言葉を全て一言に集約させて怒鳴り返すと、探偵はとてもとても 不思議そうな顔で、心配かけたのか、と聞いた。そりゃ、心配だとも。ああそうさ 心配さ。なんせ相手は目を離したらどの謎を追いかけるか分からない名探偵だ。推理バカという 言葉を使っても良い。実質そんなに変わらない。そうか、悪かったな。そんな妙に素直な 殊勝なことを言うものだから、すっかり毒気を抜かれてしまって、思わず、怒鳴ったことを 詫びてしまった。あと30分くらいは説教してやるつもりだったのに。
お互いなんとなく目を合わせにくくて、宿に戻る道すがら一言も喋らずに歩いた。


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宿に戻ってから、新一は考えた。新一が考えていることを知ったら目暮警部あたりは泣く だろう。新一が考えていたのは犯人のめどが立ってあとは証拠を探すだけとなった殺人 事件ではなく隣の部屋の友人(仮)についてである。
新一は常々、彼は何がしたいのだろうと考えていた。探偵と怪盗という間柄であるのに 関わらず彼は新一の姿が戻ったその日に工藤邸を訪れて良かったなと花を贈ったのだ。 何がしたいのかさっぱり分からないが、とりあえずその花は枯れるまでリビングの花瓶に 生けておいた。花に罪はないというのが工藤新一の言い分である。
姿が戻る前から、思えば彼には随分と助けられている。後になって分かったようなものも あれば、直接的に危機から救われたこともあった。怪盗のくせに探偵が相手でも親切で 甘いのだ。あれは紳士なのではなくただのお人好しなのだと新一は睨んでいる。それは 探偵としての勘でも何でもなかったが、まぁほぼ確実に当たっているだろう。今の今まで 攻撃していた相手が高層ビルの屋上から落ちれば、自分も飛び降りて助けようとする男 なのだから。
助けられることは実際ありがたい。1人ではできないことだってある。しかし、相手が何を 考えて行動しているのか分からないというのが嫌だ。自分を助けたところで、一体相手に 何のメリットがあるのか。何の目的もないとすれば、それはそれで単に自分の力不足を 突きつけられているようで不快だ。子供の姿だった頃なんかは特にそうだ。
だからあいつに助けられるたびに、自分の力不足と、素直にありがたいと思う気持ちと、 相手に負けたくないという意地と、色々混ざって結局、表に出やすい怒りばかりが外に 出ていたのだが。そうか、あいつは俺を心配していたのか。憑き物が落ちたような晴々と した気持ちで納得しながら、新一はにこやかに笑った。
けど、子供だった頃ならともかく、今の姿でも心配されるのはちょっとアレだ。自分だって 相手と同い年なのだから。まぁ時々、蘭のことを蘭姉ちゃんと呼びそうになるが。それは 灰原にさんざん突っ込まれたのでもういい加減出ないだろう。出ないと思いたい。祈る。 そこは今までの感謝とともに、しっかり伝えなければ。ある種の使命感すら持ちながら、 新一は友人の部屋へ行くべく立ち上がった。


とりあえず疑問解消