ある幸せな一日


カリカリカリカリカリ、カリカリカリカリカリ。

ペンが紙の上を走る音。時折途切れて、トン、トン、と机を叩く。
行き詰ったのかと思えば、すぐにまたカリカリと音が始まる。
長い金色の髪を結い上げた女性は。
短い金色の髪をかき混ぜた男性は。
ああ執務室って本来こういうものだよな、と思った。
黒い髪をした上官は、常にこうした音の中心にいるべき人物なのだ。

カリカリカリカリカリ、カリカリカリカリカリ。

ああ。
だと言うのに。
この部屋の一番上等な椅子に座って、一番重々しい机を使って、
絶え間ない音を響かせて紙に何かを書き付けている人物が。
どうして黒い髪をしていないのだろう。

カリカリカリカリカリ、カリカリ、カリッ、タン!

最後に強くペンを打って、エドワードはペンを投げ出した。
腕を伸ばして肩を回して、体を弛緩させて椅子にもたれかかる。
長い金色の髪を結い上げた女性はホットチョコレートを持ってきた。
短い金色の髪を散らばせた男性は何してたんだと手元を覗き込んだ。
湯気の立つ甘い飲み物を飲みながら、子供は誇らしげに紙を掲げた。
幸せに笑う人たちが描かれた紙を見て、顔を合わせて笑みを交わす。

椅子の主が巡回という名目で席を離れている間に、
大切なアルフォンスを子守として置いて、
体よりも随分と大きい机と椅子で、
それはもう長い時間をかけて、
書き上げた、1枚の絵。

ホットチョコレートを飲み干して、くるくると紙を丸めて。
娘の前だとやに下がった顔をする、意外と有能な中佐のもとへ。
ひとりを喜ばせることが、みんなを喜ばせることに繋がる、あの家へ。
だって今日は天気が良いのだ。
青空の下、白い紙を持って、

幸せの家に歩いて行こう。


そんな日は、晴れているのがお約束