この声が届くといい。


じゅうだいめ、じゅうだいめ、

オレの右手をとって彼は泣く。その情熱は出会った頃から何も変わらず、 ずうっとオレをつつんでいる。さいごのこのしゅんかんまで、ずっと。

じゅうだいめ、じゅうだいめ、

それしか言葉を知らない子供のように彼は泣く。オレなんかよりも、うんと 頭がいいのに。おかしいね。ねえ、ごくでらくん。そういえば、オレのことを 十代目って言うのは、君だけだった気が、するんだ。君のその呼び方ね、 ときどき使われる、沢田さん、って呼び方より好きだったよ。ほんとだよ。 だって、ボスって呼ばれるより、沢田さんって呼ばれるより、どうしてだか そうやって呼ばれるほうが、オレだけを呼んでるみたいな気がしたんだ。 ふしぎだよね。ねえ、どうしてかなあ、ごくでらくん。

じゅうだいめ、

あのねごくでらくん、オレね、君には嘘ばっかりついてたよ。気づいてるか どうか、知らないけど。でもね、いまからいうことは、ほんと。
オレね、わけもわからないままマフィアになれって言われて、死ぬ気とか そういうの、叩き込まれて、死にたくないなって思ってたら、いつの間にか ほんとにボスになっちゃってた。すごいよねリボーンは。だって、そこらの チンピラみたいなマフィアじゃないんだよ? イタリアのボンゴレファミリー だよ? そんなところのボスになっちゃってさ。やることあるからやらなきゃ いけないし、リボーンは上手いことオレのやる気を続かせるためのご褒美 ちらつかせるし、まわりにいるのは、こわくてやさしいひとばっかりだし。
そんで、今はなんか、ボスって呼ばれるのも慣れてきてさ。この辺の町に 住んでる子供からもさ、ボスって呼ばれてるんだよ、オレ。知ってるよね。 いつも一緒に、いたもんね。

じゅうだい、めぇ

うん、だからね、獄寺くん。オレはもうすごく楽しかったし、幸せだったよ。 ほんとだよ。さっき言ったとおり。こうしたかった、ああしたかった、なんで こんなふうになっちゃったんだろう。そんな後悔は1つもないんだ。ほんと。 でもねぇ。オレ、絶対むりなんだけど、絶対かなえたかったことが、最近、 できてさ。それは悔やんでもどうしようもないんだけど。
いいかい、よおくきいてねごくでらくん。オレはねえ、きみに家族をつくって あげたかったんだ。このボンゴレだって家族だよ、もちろん。でも、ちがう。 わかるよね? 違うんだよ。オレが言ってるのはほんとにほんとの家族の ことだよ。血のつながった、ね。いらないって言うかなあ。言うんだろうね。 オレは、家族をつくってあげたかった。できることならばオレが女になって きみの子供を産んであげたかった。でも、できなかった。

じゅう、だいめ、

ねえごくでらくん。おねがいだよ。お願いだから、死なないでね。
オレはもう死んでしまうけれど。オレたちはまだ若いんだから。きみはまだ わかいんだから。どうか、どうかおねがいだから、オレのあとをおうなんて ばかなことはしないでね。そんなのオレ、うれしくもなんともないよ。
最期のお願いだよ。聞いてくれるね獄寺くん。きみはオレの右腕だもの。 うん。きみは生きて、生きて、生きて、いつか、オレの願いをかなえてね。 しあわせな、しあわせなかぞくをつくるんだ。親がマフィアとか関係ない、 いつもしあわせで、ときどきはけんかもして、こどもの自慢話してまわりに うっとうしがられたりして。それで、こどもがおおきくなったらオレの墓前に 立ってさ、しょうかいしてみせてよ。じまんのこどもなんだって。そうしたら オレ、安心できるからさ。ねえ、きいてくれるよねごくでらくん。
いきて、いきて、しあわせに、なってね、ごくでらくん。

じゅうだいめ、いやです、しなないで、

血が流れ出て冷たくなっていくオレの手をあたためるようにして離さない 彼の両手に、大粒の涙がぼたぼたと落ちる。それは乾き始めた赤い血を 流すには足りなかったけれど。
十代目、十代目。彼の呼びかけを最期の瞬間まで耳にして、オレはひどく 安らかに、そのときを迎えた。


おやすみなさい、またいつかあえるひまで