ぼくたち二年生


あれは鬼ごっこをしているさなかだったか。走り疲れたのでどこかに 隠れていようと、見知らぬ誰かの部屋の押入れに逃げ込んだ。
わあわあと軽い足音がいくつも砂を蹴るのを聞きながら、荒い呼吸を 鎮めようと深く、深く、息を吸って、吐いて、吸って、深く、深く。
鼻で呼吸が出来るまで落ち着いてから、気がついた。血のにおいだ。 いちど意識してしまえば目をそらすことなど出来ぬほどのにおいが、 この狭っ苦しい箱の中に充満している。かたかたと、鳴っているのが 自分の歯だと、じんじんと、熱をもって震えるのが自分の指だと、そう 気づいたのはどれほどたってからだろう。すっかり暗闇に慣れた目は 血を吸った道具たちをいともたやすく見つけ出した。なぜだろう、よく 見えるようになった目が、真っ暗闇しか映そうとしない。
暗い、狭い、息が、血、暗い、真っ暗だ、壁が迫ってくるような、ああ どうしてこんなにも窮屈な、呼吸がまた乱れだす、ぜい、ぜい、ぜい、

スパン、

小気味よい音を立てて押入れの中に光をぶち込んだのは、眩しくて ぼんやりとしか見えないけれど、きっと雷蔵に違いなかった。
三郎みぃっけた、そう言って手を差し伸べてくる雷蔵の、なんと温かな ことか! 縋るようにして掴んだその手の感触を、彼の笑顔を、私は 生涯忘れることはないだろう。まったく私は一体何を恐れていたんだ こんなにもすばらしい存在がすぐ近くにいるのだ、恐れることなど何も ないじゃあないか!
だめじゃない、僕のそばを離れちゃあ。にこりと笑う雷蔵に胸が温かく なる。息が荒くなる。体が震える。そういえばこれはさっきなったのと 似ているけれど、これは歓喜のせいに決まってる。だって、私が彼を 恐れるなんて、私が彼に怯えるなんて、そんな理由、どこにも。




そういえば僕、鬼だった