春の日に、使われていない教室でぼうっと煙草を吸う亜久津を見た。 真っ白な髪と白ランじゃ、日射しの強い夏なんかは照り返しがきつくて 見てらんないだろうなぁとぼんやり思う。
窓を開けて、一本ちょーだい、手を出すと、いいのかよ運動部員、鼻で 笑われた。おや、意外と真面目。この反応から見て、そこまで機嫌は 悪くないと踏んで、窓から教室に入り込んだ。悪かったならうるせえの 一言でばっさり斬られてサヨウナラ、だ。珍しい機会を逃す手はない。 受動喫煙すれば一緒だって、言い切って一本拝借。面白くなさそうに ライターを渡す手は意外にも温かかった。
煙草に火をつけて、浅く吸って深く吐いた。ぼんやりと消えていく煙を 目で追いながら話題を探していると、亜久津が立ち上がってドアへと 歩き出した。ちょ、待ってよ、慌てて立ち上がるけど相手は亜久津だ。 待ってなんかくれない。灰皿なんか持ち歩いてないけど教室に残して 行ったらさすがにマズイ。学校でなんか吸うもんじゃないね。わたわた していたら、ちらりと振り返った亜久津が溜息をついて、俺の指先から するりと煙草を抜いて携帯灰皿に仕舞い込んだ。
結構真面目だ、呟いたら睨まれた。本気で苛立ってるのがわかった けど、わざと気づかないフリで照れなくていいのに、と茶化した。拳が 飛ぶかなぁと思ったけど、でかい舌打ちひとつで去って行った。
ゆるゆると、窓から光が差している。
やっぱり、夏には眩しくて見られないだろうと、目を細めた。