自分の番を待つ間、ぼんやりと窓の外を見下ろしていた。歌テストが 一人ずつって、どんだけ効率悪いんだろ。音楽教師なら五人くらいで いっぺんに歌っても聞き分けてほしい。個室で先生と一対一で向かい 合って歌うとか、これなんて羞恥プレイ?って感じだ。冗談きつい。
戻ってきたやつが緊張したとかミスったとか上出来とか、そんなことを めいめいに言い合ってるのをからかいながら、どこか所在無い自分を 右上あたりから見ている、感覚。
いつもそうだ。本気で楽しめない。どんなに燃えてても、熱くなってると 自分で思ってても、右上あたりからそんな自分を見ている俺が、いる。 くだらないと思うわけでもない。つまらないと思うわけでもない。ただ、 見ている俺に気づくと、ゲームオーバーだ。センセイ、本気ってどんな 感じですかー?かっこわらいかっことじる。なんて、ね。
めんどくさいしもうばっくれよっかな。ラッキーにも当然なことに、例の システムのおかげで先生はここにいない。
そんなことを思っていたら、視界の端で、何かがきらりと光った。
車でも入ってきたかな、窓の外に向き直れば、授業中にもかかわらず 堂々と正門から入ってくる生徒がいた。その髪は、真白。

「すげー頭」

同じく窓に張り付いているクラスメイトの呟きに同意する。あれを見て 浮かぶそれ以上の感想なんてない。俺たちの様子に、退屈していた らしい連中が窓のほうにやってきて、すげーだの真っ白じゃんだの、 勇気あんなぁだの、好き勝手に騒ぐ。その中に、亜久津という単語を 聞き取って、あぁ、亜久津っていうんだ、あいつ、真白なその髪が目に 焼きつかないうちに、そっと窓際を離れた。

やがて亜久津は職員室から飛び出してきた教師を殴って、一週間の 停学を食らったと、後の噂で聞いた。