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「驚かなかったそうじゃないか」 開口一番にそう言ったのは大和だった。その後ろには取手も立っている。 お前らそんなに仲が良かったのか。こんな朝っぱらから人の部屋のドアを 一緒に叩くほど? ああ分かっているさお前らの共通項はあいつだろう。 今ここにいる理由も。 「驚かなかった、そう聞いたぞ、甲太郎」 「ああ、驚きはしなかったさ」 返事はしたのだからもう良いだろうと、ドアを閉めようとしたが動かない。 見れば大和がドアを掴んで押さえていた。どこぞのバカのようなことを。 本気で力を入れれば閉められることは分かっていた。正体がばれている 以上、力を隠す理由もなかった。 俺は、ドアから手を離して壁にもたれ、アロマに火を点けた。 「知っていたのか? じゃあどうして止めなかった。ぼろぼろだったろう」 ああそうだ俺がやった。くっと笑う(それは、自嘲だったのかもしれない) と、取手が痛みをこらえるような顔をした。聞くのがつらいなら来なければ 良かったんだ。わざわざ。 知っていたのかって? 俺が何を知っていたと言うんだ、あいつの、何を。 この三ヶ月、あいつが自分を語る言葉を、俺は一単語も耳にしていない。 何のためにあんなけったいな職についているのかも知らない。そんな俺が あいつの何を知っていたのかって? 笑わせるな。あいつから引き出した 言葉なら、俺なんかよりお前らのほうが多かったんじゃないか? なあ。 言葉を全て飲み込んで、煙と一緒に吐き出した。 もたれている薄い壁を、ノックする。 「この壁に、防音性はどれだけ期待できると思う?」 急な問いに大和は一瞬不意をつかれたような顔をして、そしてすぐに目を 大きく見開いた。それは後ろの取手にも同じことが言える。青ざめた顔を した取手はそれでも何かを言おうとして、それを聞きたくなくてドアに手を かけた。大和の指からは力が抜けていた。ドアはあっさりと閉まる。 鍵も閉めて、足の先から頭の天辺まで布団をかぶった。アロマはつけた ままベッドの横に置いてある。睡魔よ早く降りてきてくれ、実は昨日から 一睡もしていない。 目を閉じてもまどろみの兆候すら見えない中、ああどうしてだろう大和の 声がこんなにもはっきりと聞こえてしまうのは。 「お前、どんな気持ちで聞いていたんだ」 |