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「皆守クン」 どうしてこいつがこんな所にいるんだろう。ジイさんは何を考えている? 阿門に関係あることとも思えないのに。通された部屋がいつもと違うから 何かおかしいとは思っていたんだ。俺とこいつを引き合わせるためか。 屋敷の雰囲気から完全に浮いている八千穂はへへと笑って、阿門クンの お屋敷ってすっごく大きいんだねえ、あたし初めて入ったんだ、と言った。 ここを仮眠所のようにしていたこともある俺は黙って、八千穂の向かいの ソファにかけた。いつもならばすぐに紅茶なりなんなりを運んでくる千貫の ジイさんは現れない。何のつもりだ。俺に何をさせるつもりだ。 「九ちゃん、行っちゃったね」 「卒業式には、戻ってくるのかなあ」 俺が知るか。ただ卒業式は出ないだろう。俺の顔を見たくもないはずだ。 だから、もしかしたら卒業式の後、それぞれ個々を訪ねることはあるかも しれないが。 「あたしね、皆守クンがうらやましかったんだ。ずうっと」 「皆守クンは九ちゃんといっつも一緒で、ずっと一緒で」 「・・・・最初しか、連れて行ってくれなかったなあ、遺跡」 「遺跡に行くとき、皆守クンはいっつも一緒だったよね」 「九ちゃんが、皆守クンを外すことってなかったもんね」 「皆守クンだけなんだよ」 「九ちゃんの横にずっと立っていられたのは、皆守クンだけなんだよ」 「どうしてまだ、こんなところにいるの?」 分かってる。知っている。そんなことはとっくに。 最後まで俺はその場所に立っていた。最後の最後に俺はそこを離れた。 なあ八千穂、この広い屋敷に一体何人の人間がいるのか知っているか。 阿門家の人間が、何人いるのか知っているのか。 最後まで俺は裏切り続けた。最後の最後は支えてやりたかった。それが 俺にできる全てだった。最後の最後になってようやくそう決められた。 どうしてまだここにいるのかって? それを聞きたいのはこっちのほうだ。 俺はあの場で死ぬはずだったんだもうここにはいないはずだったんだ何故 俺はまだここに生きている。全て覚悟してそこを離れたのにどうしてまだ。 「皆守」 やめろ出てくるなあれで良かったんだ良かったんだ良かったんだ。だって 選択肢は他になかった。だから後悔など、一片たりとも。そこは俺が立つ べき場所じゃなかった。あのときあの場所にいるべきは副会長だった。 《宝探し屋》の相棒でも、《転校生》の親友でもなかった。だから離れた。 なぁ、あれで良かったはずだろう? 「もう、良い。お前は十分に俺を支えてくれた。もう、十分だ」 待ってくれやめてくれ手を離さないでくれ。俺の手を引いて進むべき道を 示してくれていたのはいつだって阿門、お前だった。そうだろう? だから 俺は、お前のために 「好きに生きろ、皆守」 |