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学園の近くで、体育委員に遭遇したので引き渡した。 今日は不破の顔じゃないんだな、と快活に笑う先輩を適当にあしらう こともできたけれど、なんとなく、雷蔵の顔でしたいことでもなかった ので、と馬鹿正直に答えてしまった。すると先輩はきゅっと真面目な 顔をして、そうか、と私の頭に手を置いた。頭巾越しに伝わる体温は 高く、先輩後輩そろって手が温かいのだなと、そんなくだらないことを 思わせた。 門の外で普段の鉢屋三郎に戻る。黒い衣、狐の面から、青紫の衣、 不破雷蔵の顔へ。そうして小松田さんの目につかぬよう塀を越えて、 何食わぬ顔で敷地内を歩く。ちゃんと長屋まで戻れただろうかと三年 長屋のほうへ向かうと、友に怒鳴られている姿を見つけた。あの様子 ならば心配ないだろうと踵を返す。と、ぐいと腕を引かれた。そのまま 振り向くことも許されず引きずられたが、力の強さから相手が誰かは わかっていた。力では到底敵わないので、大人しく従う。 鉢屋、呼びかけられる声に、何ですかと返す。暗殺か、諜報か、短く 問われ、両方です、端的に答える。学園長先生に報告しに行きたい んですけど、言うだけは言ってみたけれど、案の定、後でなとあっさり 却下された。この暴君め。 ああそうだ。 「次屋くん、あの子は誘われやすいのでよく見ていてやってください」 人ならざる風景に、それと気づかず惑わされる。手を引いていたのが 同じ学園の人間だと気づいていたかどうかも怪しい。警戒をしない。 それはむしろ、人ではないものに対して。 にっと笑って、もちろんだと言うこの男、どこまでわかっているのやら。 |