月になりたい。
眼下で50メートルを走る雷蔵を見ながら、だらしなくジャージを着崩す 三郎が呟いた。言うまでもなくサボりだ。隣のクラスの俺は自習。
なんでまた月に。
理由を9割わかっていながら俺は律儀に尋ねた。答えは予想通り。
だって太陽は雷蔵のようにあたたかいじゃないか。
普通ならば雷蔵は太陽のようにと言うべきところなのだが、こいつの 傲慢さはいつものことだ。1年の頃なら突っ込んだのだろうが今はもう 慣れてしまった。そんな雷蔵が以前、笑顔で先輩をフルボッコにして いるのを俺は見たことがある。地球と太陽の距離が少し違っていれば この地球上で人間は生きられなかったというから、そういう意味では 確かに似ているかもしれない。
三郎は続ける。うっとりと語るその様子は、いっそ雷蔵を見ていない のではないかと思わせた。こいつの雷蔵像と、俺の雷蔵像は、どうも 完全に一致したためしがない。
月になった私は雷蔵の光を受けて輝いて、地上の雷蔵を照らすんだ。 相似でありながらそのことで雷蔵を傷つけることもない。
今は2人のキャラがウケてそんなこともなくなったが、2人のあまりの 空似を原因に何かと絡まれていたと、はっちゃんから聞かされた。
雷蔵を傷つけることがないと、そう言うのはそれでだろう。
だけれど俺は知っているのだ。ちょうど、今日。ちょうど、もうすぐ。
ああ三郎、お前どうしてこんな屋上に出て来てしまったんだ。せめて 保健室で寝ていればよかったものを。


月が太陽を喰らう日
(目にした三郎の顔と言ったら!)