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月になりたい。 オレンジ色の夕日が照らす教室で横顔を向ける雷蔵に、三郎がそんな ことを言っていたよと伝えると、雷蔵は無感動に、そう、とだけ言った。 太陽はまるで雷蔵のようだ、とも言っていたと続けて伝えても、雷蔵は やはり、そう、と言うだけだった。 どこか遠い目をした雷蔵はそれきり黙ってしまって、俺も言葉を失う。 そんな沈黙が破られたのは真っ赤な太陽も落ちた後。雷蔵はため息と ともに、あいつは本当に何も分かっちゃいないんだから、とこぼした。 兵助、と。呼びかける雷蔵の目に映りこんだ赤の名残が、元々はっきり しているわけではない色をさらにぼんやりとさせている。 満月になると、月と太陽の黄経の差は180度になる。逆に、新月では 黄経が等しくなる。 三日月なんかだと、月と太陽は同じ空にあれるけど形は異なる。 姿形を似せれば似せるほど遠ざかるものになりたいなんて、あいつは 本当に馬鹿だ。兵助もそう、思うだろう? そう言ってこちらを向いた雷蔵の目は、赤も光も失い、茶に近いはずの 色が妙に暗く沈んで見えた。 夜とも闇とも違うその目は、まるで、黒点のようだった。 |