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三郎の前髪が跳ねているなあと、朝からぼんやり思っていたら、食堂で 兵助に、なんでお前ら二人して前髪跳ねさせてんだと指摘された。鏡を よこせと三郎に要求したら、三郎と全く同じように、僕の前髪も跳ねて いた。跳ねてるなら跳ねてるって教えてくれればいいのに面倒くさい奴 と呟けば、三郎はむしろ呆れたように(ここで呆れるべきは僕だろうに) 何を言っているんだと嘆いた。 私を誰だと思っているんだ。鉢屋三郎だよ? 君が怪我をすればそれと そっくりそのまま同じ怪我を負って見せる男だよ。そんな私がわざわざ 前髪の跳ねを指摘する? それこそ面倒くさいじゃないか! 僕と同じ怪我って、たとえばどれさ。尋ねれば指先を突き出して、昨日 本で切ったろうと笑った。慌てて自分の指先を見れば、確かにそっくり そのまま同じ怪我があった。そういえばなんか痛いなぁとは思っていた けど、切れていたのか。本人さえ気づいていない怪我を真似るなんて。 じゃあ、聞くけれどね。今はこの程度の怪我を真似して満足していれば いいさ。だけど、いつか、僕が命にも関わるような傷を負ったら、お前は それも真似ると言うの。 すると三郎は、しゃあしゃあと、当たり前じゃないかと言った。 君が腕を落とせば私も腕を落とし、君が脚をなくせば私も脚をなくそう。 ああ、だけど心に負った傷は真似しがたいから、君は末永く、心も体も 健やかであれよ。そう言った三郎の顔の、晴れやかなことといったら! |