実習で町に出ていた七松先輩から饅頭をもらったので、分けてやろうと いそいそと長屋に戻ればそこには森しかなく、首を傾げていると左門が 目の前を突っ走っていった。珍しい。左門の道と俺の道が重なることは そうそうない。あんまり珍しかったので声をかけてみた。さーもぉーん。 ぐりんっと首の心配をしたくなる勢いで振り返った左門は大袈裟なほど 驚いてみせて、三之助ぇと呼ばわった。その勢いのままこちらに駆けて くる左門も何やら荷物を持っていて、そういや六年全体の実習だったと 思い出す。お前もお土産貰ったのと聞けば、お前もってことは三之助も もらったんだなと返された。んでお前どこ行くの。三之助は?せーの。 作んとこ。さくべー! やっぱそうなるよなとお互い笑って、それじゃあ 二人で行くかと長屋を目指し、あっちだ、いやこっちだ、太陽がこっちに あるから、でも犬はあっちにいるぞ、そんな会話をしながら進んでいると いつの間にか森の奥深くに入り込んでいた。どうしてこうなった。やっぱ あそこの分かれ道で左門の言うこと聞いたのが間違いだったな、こいつ 重度の方向音痴だもん。迷ったらその場を動くなと、迷ったことのない 俺にまで何度も言い聞かせる作の顔を思い出して、とりあえずいったん ここで休憩しようぜと言ってみた。疲れてもないのに休憩を言い出した 俺に左門は不思議そうな顔をしたが、何か思うところでもあったのか、 大人しくそうだなと頷いた。最近の授業のことや、先輩の愚痴なんかを 言い合ってるうちに日も暮れて、カラスと一緒に腹の虫も鳴き始めた。 そろそろ帰るかと腰を上げると、そこを狙ったように作の呼ぶ声がして 二人でおおいこっちだと声を上げた。がさがさと茂みから出てきた作は 俺たちが二人でいることにまず目を丸くして、そのあとため息をついて 帰るぞと言った。帰り道に、どうしてお前ら一緒にいたんだと聞かれて お土産の存在を思い出し、二人で作に突き出した。先輩に貰ったと声を 揃えて言えば作はやっぱり目を丸くして、足を止めて俯いた。見覚えの ある仕草に、泣きが入ったのかと覗き込むと拳で顎を打ち上げられた。 左門がぎょっとしたようにさくべー!?と言う声が遠くで聞こえる。その 拳をぎゅっと握り、俺を喜ばせたいなら、前置きして作は叫んだ。




黙ってについて来い!




俺もお土産頼んでたんだと笑顔を見せる富松作兵衛だが、そんな彼の
頼んだ馬が引いても切れない縄と首輪というお土産に、後輩の将来が
少しばかり心配になった最上級生が一人いたことをここに追記しておく。