先輩、呼びかけてくる金吾に気のない返事をすると、聞いてはいけない ことだったらごめんなさい、と前置きをした。こうやって遠慮する辺りが 武家の子供なのかなぁとぼんやりと思う。先輩は、七松先輩がお嫌い ですか、と問われた内容は、まだぼんやりとした頭を払うには足りず。 いまだ思考は、ぼんやりと。嫌い、ではないなぁ。尊敬している。うん、 すごいと思う。ああなりたい、ああなっていたいという、目標だ。いつか 追い着いてみせるのだ、と。そういえば、あの人もずっとそんな思いを 抱えていたなぁと、ぼんやり。その目に宿るのが尊敬や、憧れだけでは ないと、本人よりも先に僕が気づいた。だんだん迷う回数が減っていた 理由を、多分僕は知っている。けれど、ねえ。譲りたく、なかったんだ。 先輩はあの人を後輩としてしか見ておらず、あの人は自分の気持ちにも 無自覚で。ならばもらってもいいでしょう? そうやって時間をかけて こちらを向かせたと言うのに。嫌いではない。尊敬している。だけど。
来てほしくは、ないなぁ。
たった一言そう答えると金吾は、そうですか、と言って僕と同じ方向に 目を向けた。視線の先では七松先輩と次屋先輩が笑っている。


逆戻りは簡単なのにね


無知は罪なり、それならば
あれほどまでに一心に
向ける思いを知らぬとす
無自覚もまた、罪ではないか