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ジェットコースターならばどれほど高く上がってもわあわあと声を上げて 喜んでいた三之助は、観覧車には拒否反応を見せている。乗るところ までは文句一つ言わなかったのだが、いま斜め向かいに座るその顔は 青ざめ、両手はしっかと枠を掴んで離さない。隣に行こうと腰を上げると ひっと息を呑むので、むっとしながら元の位置に腰掛けた。せっかくの 観覧車なんだぞ。そう言った声にどれだけ怒気が含まれていたのか、 三之助はだからなんだとでも言いたげな顔でこちらを見る。ああいうこと したい。顎で前の箱を示すと、三之助は指一本動かすことも恐ろしいと 言わんばかりの慎重さで振り返り、げっと呻いた。ここからは首に手を かけられた男の後頭部しか見えないが、まぁ膝にでも乗った女とキスを しているのだろう。あそこまで求めはしないが、くっつくくらいはしたい。 しかしまぁ、こいつは何をそんなに怯えているんだ。試しに聞いてみると バランスが云々と青い顔で良く分からないことを言う。どうしたものかと うんうん唸っていると、三之助はそっと片手を離して、ここ、で、なら、と 小さな声で言った。がばりとすぐにも床に座ろうとした気配を察したのか ばっとその手を突き出して、ゆっくりですよ、と言った。もうほとんど悲鳴 だったが気にしない。それでも一応私基準でゆっくりと座り、三之助に 手を伸べた。こわごわともう片方の手も離した三之助が私の手に手を 重ね、そうっとそうっと、尻を浮かせたまま膝を抱え込むように座った。 私もその体をはさむように膝を立て、深い息を吐いた背中を抱え込む。 ああそうだ、ジェットコースターは怖くないのに観覧車が怖い理由。 それは、周りが見えて、高いことを意識するからじゃなかろうか。 だとしたら。それならば。なんだ、簡単だ。 |