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ちかりと、星が大きく瞬いた。他のものとは一線を画した大きさ、輝き、 色をしたその星は、本当に他のものと同じ星なのだろうかと疑問に思う ほどだった。それはそう、ちょうど、その金の色と大きさも相まって、星 というより月の欠片だといわれたほうが納得できる、そんな星だった。 だってあそこにある星などは青ざめた白色で、瞬きこそ顕著だけれど、 今にも消え失せてしまいそうな、淡い光しか発していないのに。そんな ことを思いながら先の星に目を戻すと、消えていた。木のかげに入って しまったのかしらと位置を変えてみても見つからない。まるで最初から 存在していなかったかのように、綺麗さっぱりいなくなってしまった。 きっと私のみ間違いだったのだろうとため息をつき、雷蔵の待つ長屋へ 足を向けた。外は少し、寒すぎる。 自室の木戸を開けると、慌てたように珍妙な声を上げた雷蔵がこちらを 振り向き、ばっと背に手をやった。ただいま、おかえり、と声をかけ合う 間もその手は私に晒されることがない。怪訝に思って問うても、うーん とかなんとかはぐらかすばかりで要領を得ない。そんなに隠したいのなら いいよと背を向けて本を開けば、ため息とともに名を呼ばれた。 三郎、という声に振り向けば、手を前に回した雷蔵が目に映る。そこへ にじり寄るのを待ち、もったいぶって開かれた手の平の上にはころんと 黄色い飴玉のようなものが載っていた。お食べよ、と指先につままれた それを口に含むと、ほろりと溶けてすぐに消えてしまった。どうだろう、 美味しいかい?、と尋ねる雷蔵に、あっという間に溶けてしまったから よくわからなかったと答えると、だってまだ食べごろには早いもの、あと たっぷり一月は育ててやりたかったのに、お前が気づいてしまうから、 と頬を膨らませた。育つようなものなのかと目を丸くすれば、暗い中に 放っておいて、たまに転がしてやれば大きくなるんだと笑った。 綺麗だったろう?、そう微笑む雷蔵の顔に何かが脳裏を過ったけれど、 この笑みに比べたら何もかもが些事だと追いやった。 夜空にあの金星を再び見かけることは、終ぞなかった。 |