内科医×女子高生



床に落としたジーンズを穿いて、先生はこちらに背を向けた。コーヒー 飲める?、問う声に飲めるよと返す。飲める、っていうだけで、あんまり 好きではないけれど。ふうんと喉の奥で笑う先生の背に、赤い無数の 傷を見つけて、背中どうしたんすかと聞いてみた。またいつものように はぐらかされるんだろうと思った問いに、先生はなんとも形容しがたい 笑みを浮かべて、どうしたって、君がつけたんだろうにと答えをくれた。 はてなんのことだろうと考えるよりも、今は笑みと一緒に歪んだ口元の 包帯を注視するほうが大事だ。なんでこの人こんなにエロいんだろう。 そんなことを、ぼんやり。普段より数段回転の遅い頭がようやく先生の 言葉を読み込んで、俺がつけた?と手を見やる。少し伸びた爪のさき、 こびりついた赤黒いものは、じゃあ、先生の血、だろうか。
ぺろりと舐めた指先を、いつの間にか近くに来ていた先生が絡め取る。 あぁ、捕まった。ぼうっと思っていると、切ってあげようか?と、先生が 今までに見たこともないようなやさしい目をして語りかける。そんな目を 向けられてしまえば、うんと頷く以外の選択肢なんて見えなくて。
そういや数馬がこんど爪を塗らせてねとか言っていた気がするけれど、 そんなことは、もう。


ベッドに座ったままの俺の手を先生がすくって、銀の爪切りでぱちん、 ぱちんと爪を落とす。するすると指が動かされるそのたびに、ぴくぴくと 動く指先をたしなめられてしまうけれど、じっとしてなんていられない。
左手から親指、人差し指、中指、小指。丁寧にさりさりと鑢までかけて ようやく解放された左手と落ち着かない心臓を宥める暇もなく、じゃあ 次、右ね、とお手でも躾けるように手を差し出される。誘われるままに ぽすんとのせた右手を取って、また、親指から。
ただ爪を切られているだけなのに、ぞくぞくと背筋を這う慣れた感覚が 止まない。知られてしまえばあの声で蔑まれるのだろう。そう考えたら ずくりといっそう大きな震えが走って、そんな自分に、心底呆れた。もう すっかり仕立て上げられてしまってる。
小指の爪を削り終えた先生が足も?と悪戯に尋ねたけれど、俺は首を 横に振って、床に座っているせいでいつもより低いところにある先生の 頭を抱え込み、肩にすがりつくようにして小さく、舐めて、とねだった。



我慢なんてできません
だってそう躾けられたんだもの!