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不破雷蔵という人間は本来、ズボラで、大雑把で、しかもたいそうな めんどくさがりやだ。それでいてひとの頼みを断って波風立てるのも 面倒だからと、二つ返事で答えてしまう人間だ。その結果として得た 評価が「お人好し」な後輩であったり「やさしい」先輩とくるのだから、 かくも笑顔とは重要なものである。 面倒とは思いつつ仕事は仕事なのだからそれだけで面倒なものだと 割り切っている彼も、プライベートで面倒ごとに巻き込まれるのは勘に 障る。たとえば金銭の貸し借りであったり、たとえば痴情のもつれで あったり、たとえば友人同士の喧嘩であったり。 しかし彼に言わせればそんなのは些細なものだ。 最たるものは、鉢屋三郎である。 こいつはいちいちめんどくさい。信号ひとつとってもめんどくさい。 赤信号を渡らない。点滅したら立ち止まる。そんなものいま時分誰が 守っているのだという交通ルールまで遵守する。一方彼は日ごろから 信号をないものと考え、常に自己判断で横断している。事故に遭った ときは自業自得、どころかどんなにこちらに非があっても自転車以上 なら向こうに責任をふっかけられるから重畳という考えの下でそれを 行っているのだから質が悪い。そんな彼がつきあって大人しく信号を 待つはずもなく、毎回ちらっと左右を確認してささっと横断しようと するのだが、そのたび腕を引かれて失敗する。 こんな道、信号なんてお飾りで、車なんてひとつも通りやしないんだ。 渡ってしまえばいいじゃないか。彼は声高に主張する。しかし相手は 静かに首を振るのだ。そういってきみがしんでしまったらどうする。 |