|
終業の鐘と同時に窓から飛び出しても、日頃の奇行によほど慣れて いるのだろう、級友たちは気にも留めず日頃通りの行動をしている。 その間を縫って自分も窓から飛び出す。いま目を離していた間にも、 あいつは姿を変えているだろう。まずはその姿を見つけなければ。 木の上や屋根の上や穴の中、縦横無尽に探し回ってやっと見つけた その背に待てぇと声をかければ、体力の回復を図っていたのだろう、 ぎょっとしたような顔(食満先輩の顔だった)をして走り出した。 負けじといつもとは色の違う背に迫る。単純な速さならば敵わないが 体力ならこちらに分がある。それに、追う者よりも追われる者のほうが 体力気力ともに消耗が早い。持久戦に持ち込んでみようか、と意地の 悪いことを考えていると、後方に飛び上がって今までの進行方向とは 真逆へと逃げた。突然の方向転換に体が追い着かず、みっともなくも 転びそうになるのをどうにか耐えて、自棄糞のように追いかける。と、 どん、と誰かにぶつかった。尻餅をついた状態で相手を確認すれば、 なんと雷蔵だった。本を運んでいたらしい。あいたたたと打ったらしい ところをさする雷蔵に散らばった本を渡してやって、雷蔵は三郎の顔 見たことある?、聞いてみた。どうだろうね、雷蔵は曖昧に笑った。 見つけて追いかけて逃げられて、日も沈んだ頃にようやく捕まえた。 俺も息が上がっていたが、三郎はもう咳き込むほどになっていた。 あぁこれですっきりする、とその顔(今は雷蔵の顔をしている)に手を かけると、少しばかり苦しそうな、しかし静かな声で止められた。 やめろと抵抗されたなら、止める気も起きかっただろうに。 「見せろよ」 「いやだよ」 「なんで見せない」 「なんで見たがる」 「後輩に、お前の素顔が気にならないのかと聞かれて、気になった」 思えば、きっかけはそんな些細な一言だったのだ。五年間、気にした ことがないと言えばそれは全く嘘になるが。 「今ここでこの皮を剥いだって、お前の気が晴れたりはしないよ」 「どうして」 「わからない? お前は私を誰だと思っている。鉢屋三郎だぞ」 「この皮の下にあるのが私の素顔だと、どうして言える」 「わかったら、この手を離して、どいてくれ」 その言葉に、俺は両肩を押さえていた手を外し、乗り上げていた体を 浮かせて、疲れた体を解放してやった。立ち上がって、今日の夕飯は なんだろうねぇといつもどおりに話す姿に、そうだなぁと答えてともに 歩きながら、雷蔵が曖昧に笑った理由が、なんとなくわかったような 気も、した。 |