A定食には冷奴。B定食の麻婆豆腐も捨てがたい。ああなんてこと、 C定食には豆腐の味噌汁がついているじゃないか! 悶々と悩んで いると、後ろから声をかけられた。
「今日は豆腐ばっかりだなぁ。それで迷っているのか?」
「雷蔵、お前がいつも迷う気持ちがよく分かった・・・・」
「・・・ふふ、じゃあ兵助、一つお選びよ。残りの二つは僕たちが頼んで あげるから、豆腐と何かを交換しよう」
「本当か!」
「うん、そうすれば僕が迷うこともないし」
日頃から優しい男だとは思っていたが、今このときほどにその優しさを ありがたく感じたことはない。後光すら見えた気がする。
B定食を頼み、A定食とC定食の盆を両手に乗せた雷蔵と席に座る。 私のはす向かいに座った雷蔵に、違和感を覚えた。いつもなら雷蔵は 私の正面に座るはず。その違和感を明確にするために声をかけようと すると、雷蔵が振り返って手を振った。
「雷蔵、こっち」
私が喋っていたのは三郎で、今、はっちゃんと二人で入ってきたのが 雷蔵、つまりは、そういうことだったのだろう。
俺の分はとってないんだなと笑うはっちゃんに当たり前のような顔で 私の腕は二本しかないからねと嘯く三郎に、はっちゃんが苦笑した。






その晩、長屋にて。
「ねえ三郎、おまえ何を拗ねているの?」
「・・・・あの豆腐馬鹿、声音を変えただけなのに騙されたんだ」
「それはあの兵助のことだもの、よほど目の前の豆腐に気を取られて いたんだろうよ。馬鹿だねぇ、おまえ、それで寂しそうにしていたの」
「寂しくなんかない」
「そう。なら僕の勘違いだ。お休み三郎」
「おやすみ、雷蔵」
そんな会話がなされたことも知らず、豆腐小僧は眠る、眠る。