ぴんぽん、と軽い音にドアを開けると、花を抱えたハチが立っていた。
「・・・・・・・ごめん僕前世からの恋人がいるから」
「待て待て待て待て待て!」
思わず電波な台詞を口走ってドアを閉めようとした僕にハチは慌てて、 これ昨日の残りもん!と叫んだ。よく見れば、花束は赤ピンク白と色は 違えどカーネーションばかり。ああ、母の日。理由はわかったけれど、 やっぱりそのセンスはないと思うよ、ハチ。

僕が花瓶にさそうとしたけど、花が泣くとの訴えによりカーネーションは ハチの手で生けられた。そんな花を囲んで、煎餅をかじる。
「雷蔵んとこはサラリーマンなんだっけ」
「共働きのね。昨日は盛況だったかいお花屋さん」
「期待したほど盛況じゃなかったから余ったんですぅー」
ぽりぽりと煎餅をかじる音がしばらく続いて、どちらともなくぽつり、
「三郎はさ、」
「あったかい家庭に生まれてるといいね」
「あんまり家の話とかしなかったけどさ」
「やさしい家では、なさそうだったものね」
ぽつり、こぼして、またしばらくの無言の後、ハチは出て行った。余った 花はこれだけじゃなく、タカ丸さんの美容院にも分けに行くそうだ。
母の日、なんて、わかりやすく感謝できる日があるのに。
夜にならないと意味をなさない花たちは、それでも豪奢に咲き誇る。


親不孝な僕が今一番会いたいのは