意味もなくただただ広大で真白な空間の中で鬼に囲まれ、私は地面に 頭をつける。組んだ脚に膝をつき、うっすら笑ってだぁめと答える相手は いっそ子供のようだった。
この空恐ろしさは誰かに似ているなと、思いながら重ねて乞う。
どうせ追い着けっこないんだよ?、酷薄そうに笑う彼は、もしやその顔 以外を知らないのかしら。子供の気まぐれを待つように、ひたすら頭を たれる。お願いします、お願いしますと。こうしている間も彼は一人で。 ああ早く、早く早く早く追いかけてやらないと。真白い空間に赤が一滴 落ちた。初めて顔を歪めた彼は言う。いいよただしそのかわり。

「その代わり、『お前』はいなくなるからね」

構わない。記憶も器も何も要らない。ただ彼の近くに在れればそれで。
承諾した私に、彼はうっそりと笑いかける。願いどおりにさくさくと削って あげようね。お前の体が一片削り取られるたび、記憶もなくなっていく。 そうして体全部を失ったら人間界に落としてあげるからね。さあ楽しい 地獄の始まりだ。そうそう言い忘れていたけれど、お前の言うところの 片割れは、どれだけ遅くなってもいいから記憶は消すなと願ったよ。
鬼に両脇から引きずられ、真白の世界はバタンと閉じる。扉のこちらは 赤い赤い。さあ早く削っておくれ。私は生まれ変わるのだから。


すぐに追いかけるよ